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「ほんっとに疲れる…」
思わず溜め息がこぼれるが、冷たいミルクティーは流石に帽子屋サンが入れたものだけあって、美味しかった。
「溜め息吐くと、幸せが逃げるわよ」
アリスがそんなことを言う。
「そんなこと言ったってなァ…っ」
オレは思わず言い返しそうになったのだが、言葉遣いが悪いと言いたいのだろう。アリスがすぐさま訂正を入れようと口を開くものだから、言われる前に言い直した。
「そんなこと言ったって…女の格好なんかしたくないんだから、溜め息もこぼれるよ」
それを聞いた帽子屋サンが
「あきらめの悪い奴だ」
と肩をすくめた後、不意に
「お前、今一番欲しいものはなんだ」
と言う。
「え…?欲しいものって言われても」
オレはあまりモノに執着がない。そんなにすぐには思いつかずにいたのだが
「何かあるだろう」
と言われて、少しだけ考えた。
オレは前に楽器屋で見た、黒のエレキギターを思い出した。色形も最高だったけど、音の響きが他のとは全然違ったのだ。
「ギター欲しい」
「ギター?」
「ん、そう。思いっきりうなる、最高に音のイイやつ」
オレがそう言うと、帽子屋サンは
「よし。では、それを買ってやろう」
と言い出した。
「へ?」
「お前がミスコンで優勝出来たら、賞金の三割はお前が使っていいと言っただろう。ギターを買えばいい」
「……」
そうだ。女装に気を取られて、すっかり忘れていた。確かに賞金の一部を使ってもいいと、彼は言っていた。
「ほんとにいいの?」
オレが念を押すと、帽子屋サンはすんなりうなずいた。
「もちろんだとも。約束は守る」
「やった…!」
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