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「その代わり」
帽子屋サンが、オレの前に人差し指を立てて突き出した。
「優勝すれば、の話だ。優勝出来なければ、賞金は手に入らない」
言われて見れば、確かにその通りだ。賞金が手に入らなければ、オレの五日間は無駄になるわけだし、ただの恥さらしだ。
アリスも
「そうよ。せっかくやるからには、優勝を狙わないと」
と言う。
「…そうだな。ギターも手に入るし」
オレがうなずくと、帽子屋サンは薄く笑った。
「やる気が出たようだな」
「まぁ、ね」
「では、チェシャ猫には頑張ってもらおう」
帽子屋サンはゆっくりと立ち上がり、それから部員全員を見回して、こう言った。
「ミスコン本番まで、あと三日しかない。いいか。どんな手を使っても構わない。チェシャ猫を、学園内で一番の美人に磨き上げて、必ず優勝させろ」
それから、彼はオレをちらりと横目に見た。
「チェシャ猫、お前は今日から三日間、不思議の国クラブの姫君だ」
「ひ、姫君…?」
余りにオレには似合わないメルヘンな響きに、開いた口がふさがらない。帽子屋サンは続けた。
「そう。お前をプリンセスにしてやる。お前がやる気を出して優勝を狙ってくれるなら、どんなワガママも許そう」
そして彼はもう一度、部員に視線を戻して言った。
「今日から三日、この部の部員はチェシャ猫の下僕だ」
「下僕…?」
女王サマが眉を寄せる。帽子屋サンはにやりと笑った。
「女王と言えども、今回は例外なしだ。チェシャ猫を姫君だと思って、身を粉にして働け」
彼はその後、反論は許さないというように軽く手を振って席に座ると、涼しげな顔でまたお茶会へと戻った。
なんだかすごいことになった。
だが、オレだってただ恥をさらすためにミスコンの壇上になんか上りたくはない。どうせやるなら、優勝をっさらわなければ。
「よーし、やるぞ」
オレはそう気合を入れたのだが、早速アリスが訂正を入れてきた。
「さぁ、やるわよ…でしょう?お姫様?」
お姫様。多少の気色悪さはあるが、それでも優勝賞金とギターを思えば、悪くない響きだった。
「さぁ、やるわよ」
オレがニィと笑って言い直してやると、帽子屋サンは意外そうに目をあげ、それから
「そう、その調子だ」
と笑みを浮かべた。
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