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それから三日間、オレの姫様生活が始まった。
恥ずかしい気持ちがなくはなかったが、一度決めたからには、やり通さなければ気がすまない。覚悟を決めてしまえば、なかなか姫君あつかいも悪くはなかった。
例えば、オレが
「歩き疲れた」
と言えば、女王サマ専用の赤いソファをゆずってもらえたし
「お腹がすいた」
と言えば、白ウサギが購買まで走って、パンを買って来てくれたりするのだ。
こんなことは普段なら絶対に有り得ない。たった三日間だけの特権だ。オレはそれを大いに利用させてもらうことにした。
ただし、ワガママを言うからには、オレもミスコンに向けて、本気で準備をしなければならなかった。
水曜日、ヒールのある靴を履いて歩く練習をしていた時のことだ。
キャタピラが衣装のデッサンを持って来て
「どれがいいか選んで」
と言う。
見ると、ざっと十枚以上のドレスデザインがスケッチブックに描かれていた。
「うわ、こんなに描いたの?」
思わず驚いてしまうのは無理もない。それもただデザインしただけではなく、前後左右のそれぞれの角度から見た時のイメージや、レースやリボンの細部までこと細やかに描かれている。
「だってチェシャ猫にどんなのが似合うか分からなかったから」
キャタピラはそう言って、スケッチブックをめくって見せた。
最初のページは、白いウェディングドレスで、小さなカスミソウをちりばめた花束や、白銀のティアラで髪を飾ってある。
「んー、これはオレ…じゃない、アタシより白ウサギって感じかな」
オカマ言葉で気持ち悪いが、それも優勝のためだ。仕方ない。
「じゃぁ、こっちは?」
次に見たのは、グッと大人っぽい細身の黒いワンピースだ。羽のファーが付いていて、小悪魔風。
「うーん、イマイチ。ドードーとかが着たら似合いそうだけど」
「じゃぁ、これ」
「あぁ、絶対パス。赤いドレスは女王サマの特権でしょ。それに裾が長くて、踏んづけちゃいそうだよ」
あれもダメ、これもダメと次々にページをめくっていく。
「えぇ、これもダメなの?」
キャタピラが眉を寄せたが、横からそれを覗き込んでいたアリスが
「まぁまぁ。今のチェシャ猫はお姫様だもん。ワガママくらい聞かなくちゃ」
と笑う。
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