猫とコルセット

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 金曜日。  時間が過ぎるのは、あっという間だ。早くもミスコン前日となった。  ようやくヒールで歩くことも慣れ、きちんと脚を閉じて座ることが出来るようになると、帽子屋サンが 「ただ歩けて座れると言うだけでは、優勝は無理だな。他の候補者と差をつける何かが必要だ」 と言い出した。 「何かって何?」  オレがたずねると、彼は何か考えるように部室内を見回した。 「そうだな。例えば…」  その目が、扉の近くで読書をしている門番で止まり 「ダンスが出来る、とか」 とつぶやいた。 「へ?」 「何?」  オレと門番は、思わず目を見合わせてしまった。  帽子屋サンは、にやりと嫌な笑みを浮かべ 「名案じゃないか。チェシャ猫、お前、学園祭の時に門番とアリスのダンスのレッスンを見てたんだから、踊れるだろう?」 と言う。 「そりゃ、少しは踊れるけど…っ」  でも色々と問題がある。 「なんで門番と踊らなきゃならないんだよ?」  言った瞬間、アリスが 「なんで門番と踊らなくちゃならないの?でしょ。もう…ちょっと気を抜くと、すぐ男言葉になっちゃうんだから」 と文句を言った。 「…なんで門番と踊らなくちゃならないの」  オレがしぶしぶ言い直すと、帽子屋サンに 「文句を言うな。優勝のためだ」 とばっさり切り捨てられた。優勝と言われると、弱い。 「……っ」  反論が思いつかずにいると、後ろからドードーが 「仕方ないじゃない。うち、ジリ貧なんだから。踊りくらいどうってことないでしょ」 と耳の痛いことを言った。 「うー、分かったよ…」  諦めて立ち上がる。門番も複雑そうな顔をしていたが 「仕方ない。部費のためだ」 と言うと、本を置いて俺の前にやって来た。 「場所広げて。ほら、帽子屋。アンタもどいて」  ドードーがてきぱきとテーブルを動かして、踊るためのスペースを作り出す。 (なんだよ、この羞恥プレイ)  部員全員の前で踊るなんて、何かの罰ゲームとしか思えない。
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