2966人が本棚に入れています
本棚に追加
金曜日。
時間が過ぎるのは、あっという間だ。早くもミスコン前日となった。
ようやくヒールで歩くことも慣れ、きちんと脚を閉じて座ることが出来るようになると、帽子屋サンが
「ただ歩けて座れると言うだけでは、優勝は無理だな。他の候補者と差をつける何かが必要だ」
と言い出した。
「何かって何?」
オレがたずねると、彼は何か考えるように部室内を見回した。
「そうだな。例えば…」
その目が、扉の近くで読書をしている門番で止まり
「ダンスが出来る、とか」
とつぶやいた。
「へ?」
「何?」
オレと門番は、思わず目を見合わせてしまった。
帽子屋サンは、にやりと嫌な笑みを浮かべ
「名案じゃないか。チェシャ猫、お前、学園祭の時に門番とアリスのダンスのレッスンを見てたんだから、踊れるだろう?」
と言う。
「そりゃ、少しは踊れるけど…っ」
でも色々と問題がある。
「なんで門番と踊らなきゃならないんだよ?」
言った瞬間、アリスが
「なんで門番と踊らなくちゃならないの?でしょ。もう…ちょっと気を抜くと、すぐ男言葉になっちゃうんだから」
と文句を言った。
「…なんで門番と踊らなくちゃならないの」
オレがしぶしぶ言い直すと、帽子屋サンに
「文句を言うな。優勝のためだ」
とばっさり切り捨てられた。優勝と言われると、弱い。
「……っ」
反論が思いつかずにいると、後ろからドードーが
「仕方ないじゃない。うち、ジリ貧なんだから。踊りくらいどうってことないでしょ」
と耳の痛いことを言った。
「うー、分かったよ…」
諦めて立ち上がる。門番も複雑そうな顔をしていたが
「仕方ない。部費のためだ」
と言うと、本を置いて俺の前にやって来た。
「場所広げて。ほら、帽子屋。アンタもどいて」
ドードーがてきぱきとテーブルを動かして、踊るためのスペースを作り出す。
(なんだよ、この羞恥プレイ)
部員全員の前で踊るなんて、何かの罰ゲームとしか思えない。
最初のコメントを投稿しよう!