猫とコルセット

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 優勝賞金を目指す部員達は容赦がなかった。 「ちょうど舞踏会で使った音源があるから、それを流すよ」  王がそう言ったかと思うと、プレイヤーにCDをセットした。  門番もあきらめたらしく 「ほら、手を貸せ」 と左手を差し出してくる。オレも自棄になって右手をそっとそこに乗せたわけだが、それは強烈な違和感をもたらした。  前にアリスと踊った時は、オレが彼女の腰を抱いた。だが、今は逆だ。  オレが女役。門番が男役。腰を抱かれて、どうも落ち着かない。 (門番のヤツ、背ぇ高いな)  目の前に立たれると、結構な圧迫感だ。 「じゃぁ、始めるよ」  王がそう言って、音楽を流し始めた。ワルツのテンポを聴きながら、心の中でカウントする。 (1・2・3、1・2・3)  次で踏み出そうと、オレが左に最初のステップを踏み出した時だった。 「お、わ…っ!」  いきなりバランスを崩して、すぐにダンスは中断した。 「ちょ、なんで門番、そっち側に動くわけ?」  彼はオレと反対側、向かって右に動こうとしていた。思わず文句を言おうと、彼を下から睨んだのだが、それを見ていたアリスが 「いいのよ。門番は合ってるわ」 と言う。  門番が溜め息を吐いた。 「男が左にステップを踏むんだ。女性側は常に利き手側、つまり右に動く」 「え、そうなの?」  知らなかった。というか、少し考えれば分かりそうなものなのだが、オレはダンスなんて見よう見まねで覚えただけで、きちんと習ったわけではない。例え習っていたとしても、女側の動きなんか知っているはずもなかった。
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