2966人が本棚に入れています
本棚に追加
優勝賞金を目指す部員達は容赦がなかった。
「ちょうど舞踏会で使った音源があるから、それを流すよ」
王がそう言ったかと思うと、プレイヤーにCDをセットした。
門番もあきらめたらしく
「ほら、手を貸せ」
と左手を差し出してくる。オレも自棄になって右手をそっとそこに乗せたわけだが、それは強烈な違和感をもたらした。
前にアリスと踊った時は、オレが彼女の腰を抱いた。だが、今は逆だ。
オレが女役。門番が男役。腰を抱かれて、どうも落ち着かない。
(門番のヤツ、背ぇ高いな)
目の前に立たれると、結構な圧迫感だ。
「じゃぁ、始めるよ」
王がそう言って、音楽を流し始めた。ワルツのテンポを聴きながら、心の中でカウントする。
(1・2・3、1・2・3)
次で踏み出そうと、オレが左に最初のステップを踏み出した時だった。
「お、わ…っ!」
いきなりバランスを崩して、すぐにダンスは中断した。
「ちょ、なんで門番、そっち側に動くわけ?」
彼はオレと反対側、向かって右に動こうとしていた。思わず文句を言おうと、彼を下から睨んだのだが、それを見ていたアリスが
「いいのよ。門番は合ってるわ」
と言う。
門番が溜め息を吐いた。
「男が左にステップを踏むんだ。女性側は常に利き手側、つまり右に動く」
「え、そうなの?」
知らなかった。というか、少し考えれば分かりそうなものなのだが、オレはダンスなんて見よう見まねで覚えただけで、きちんと習ったわけではない。例え習っていたとしても、女側の動きなんか知っているはずもなかった。
最初のコメントを投稿しよう!