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「とにかく、お前のステップは右からだ。もう一度」
門番に言われて、音楽が再開する。今度こそ気をつけながら、タイミングを見て右にステップを踏んだ。
(1・2・3、1・2・3)
音楽が好きだから、オレはリズム感はいい方だ。ステップも見よう見真似だが、意外に出来ていると思う。
しかし、ターンをしようとして、またミスった。
「ちょ…っ わ…!」
足元が狂って、ヒールで思い切り門番の足を踏みつける。
「…痛…っ」
門番が顔をしかめ、またダンスは中断した。
「今のは門番が間違えたんだって。オレ…じゃない、アタシはちゃんとターンしようとしたのに」
「違うわよ。チェシャ猫、ターンも逆なの。右足で踏み込むのよ」
アリスが右回りだというように、指をくるくる回して見せた。
「そうなのか…」
色々と勝手が違うから、どうも上手く行かない。その後も何度かやってみたが、バランスは崩れるわ、テンポまでずれて来るわで、中断に継ぐ中断だった。
オレは何度も門番の足を踏み
「ちょ、ちょっと待て…っ 休憩にしよう…っ」
あの忍耐強い門番の方から、そう言うほどの惨憺たる結果を出してしまった。
「門番、大丈夫?」
アリスが心配そうに門番の顔をのぞき込むと
「ダメかも知れない…」
門番が痛みに呻きながらそう言った。
「なぁんで踊れないんだー?」
オレも自分で自分が不思議で仕方ない。アリスと踊った時は、ただ見ていただけであんなにすんなり踊れたのに。
「チェシャ猫には向いてないんじゃないですか?」
白ウサギが眉を寄せながら言う。
「アリスの方が、まだ踊れてたと思いますけど」
「そんなこと言われなくたって分かってる」
オレは思わず、ふん、と鼻を鳴らしてしまった。
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