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しばらくすると、がちゃりと扉が開いて、ダッチェスがやって来た。両手に大きな袋を抱えている。
「あ、あらら…危ない、危ない」
前が見えていないらしく、フラフラしていて危なっかしい。
「ダッチェス、コケるって。持つよ」
荷物をオレが持つと、両手の自由になった彼女はずり落ちてしまった眼鏡を上げながら
「まぁ、チェシャ猫。ちょうどね、衣装を作り終わったから、試着してもらおうと思って持って来たのよ」
と言う。
「え、もう出来たの?!」
ふわふわとトロそうに見えて、仕事が速い。彼女は
「作ったのはスカートだけだもの。あとはジャケットを買って、少し手直ししたりしたけど」
と言うが、それにしたってこんなに短い時間で全てをそろえるのは大変だったはずだ。だが、そんな大変さは微塵も見せず
「ミスコンに出るって言うから、頑張っちゃった。着てみて」
とふわふわ笑った。
「チェシャ猫、早く袋を開けてみて」
女王サマに急かされて袋を開けると、中からふわりとしたスカートが出て来た。
「わ、すごい。ロックテイストで可愛い!」
アリスが目をきらきらさせて、そのスカートを広げた。明るいパープルの生地の上に、蜘蛛の巣をモチーフにした黒いレースが重なっている。
「それに、このベルトが合うんじゃないかなと思って」
ダッチェスが、袋の中からシルバーチェーンのベルトを出した。蝶々をかたどったチャームがついていて、重ねるとちょうど黒のレースで作った蜘蛛の巣に、蝶々が捕まってしまったように見える。
「悪くないな。チェシャ猫、着てみろ」
帽子屋サンに言われて、オレは頷いたのだが、問題がある。
「え、ここで着替えるの?」
「他にどこがある。トイレの個室にでもこもるか?」
「ヤダよ、服落としたら最悪だし」
「では、あきらめてここで着替えろ」
冗談じゃない。部員全員の前で生着替えなんて、するものか。
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