猫とコルセット

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「上も着替えちゃいましょう。はい、脱いでー」  ダッチェスに言われて、ネクタイを右手で引っ張るようにしてゆるめに掛かる。 (なんで三月ウサギの手伝いなんか必要なんだ?)  そう思いながらワイシャツも脱ぎ捨てて素肌をさらしたのだが 「じゃぁ、これをつけてもらうわね」 とダッチェスが袋から引っ張り出してきたものを見て、オレは思い切り顔をしかめてしまった。 「うげ、何それ…」  おおよそ服には見えない、ヨロイのような何か。そんなものキャタピラのデザイン画にはなかった。 「コルセットって言うのよ」  ダッチェスがふわん、と笑う。 「コルセットぉ?」  聞いたことがある。中世のヨーロッパの貴婦人がドレスを着る時に体のラインを矯正するために使ったという、体をぎゅーぎゅー締め付けるアレだ。 「着るのは別にドレスじゃないンだろ?なら、そんなのいらないって」  オレはそう言ったのだが、ダッチェスはオレの体を見て、首を横に振った。 「男の子と女の子じゃ、体の形が全然違うもの。もっとウェストをくびれさせないと、女の子らしいラインが出ないと思う」 「え…そこまでしなくても」  オレは思わず後ろに後ずさったが、ダッチェスがにこーっと笑って 「ちょっと苦しいかもしれないけど、でも絶対可愛くなるし、似合うと思うわー」 という言葉に、悪意はみじんも感じない。 「三月ウサギくん、手伝ってね」  そう言って、ダッチェスは三月ウサギにコルセットを渡し、三月ウサギはするりと俺の体にそれを巻きつけた。 「うお、触ンな!」 「じっとしてろって」  三月ウサギはオレより背も高いし、力もある。割と呆気なく押さえ込まれてしまった。押さえ込まれたまま、片手でコルセットの紐を引っ張られると、ぐっと息が詰まる。 「ぐぁ…!」  カエルのつぶれたような声を出してしまった。
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