猫とコルセット

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 三月ウサギが片手でオレの体を押さえ込み、もう片手で次の紐を引っ張る。 「おえ…っ ちょ、内臓つぶれる…!」 「大袈裟なこと言うなよ」  三月ウサギは呆れたようにつぶやくが、こっちは冗談なんかで言ってるわけじゃない。本気で苦しかった。 「ぐ…っう…!」  紐を引っ張られるたびに、肺から空気が押し出されていく。  そのうち抵抗する力も出なくなって、オレは大人しくされるがままになったのだが 「うぇ…っ き、きつい」  酸欠でめまいがして来そうだ。 「もうちょっとだから頑張れよ、ほら…っ」 「ぐええ…!」  部室内に着替え中とは思えない声が響いた。  ようやくコルセットを装着し終わる頃、オレは息も絶え絶えだった。 (女ってすげえ)  そう思ったのは言うまでもない。  まず姿勢をまっすぐ保っていなければ、苦しくて呼吸が出来ない。深呼吸もダメだ。胸元や腹は締め付けられているから、静かに肩で息をしなければならなかった。  ちなみに胸元にはカップが付いていて、綿がぎっしり詰まっている。 「うわ、女の子って胸こうやって作ってンだ」  オレは思わず自分の胸元を見下ろしてしまった。 「さ、その上からこれを着て」  そう言ってダッチェスから渡されたのは、明るいパープルの小さなTシャツで英字プリントのアクセントがある。それを着ると、三月ウサギがヒュゥと口笛を吹いた。 「どうなることかと思ったけど、コルセットで体格矯正すりゃぁ、それなりに見えるもんだな」  ぴったりしたTシャツを着ても、ウェストがしっかりくびれていて、なんだか自分の体じゃないみたいだ。  Tシャツの上から細身の黒ジャケットを羽織り、足元も黒の細いピンヒールブーツで決める。あとは蝶々のチェーンが付いたベルトをつけて、指輪とチェーンで繋がったごつめのブレスレットをすれば出来上がりだ。
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