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スヤスヤと寝息を立てる眠りネズミの代わりに、門番が声を掛けてくれた。
「一緒に行こう。高校生が一人で行っても、衣装を貸してくれるかどうか分からない」
「あ、そうか」
確かにこういうのは大人な門番がいてくれた方がいいかも知れない。あたしは素直に一緒についてきてもらうことにした。
「じゃぁ、行って来る」
門番がキャタピラに声をかける。彼女は煙草の箱をポケットから取り出しながら
「ごゆっくり」
と目を細めて笑った。どうも意味深な笑い方だ。からかわれているのだと分かって、あたしは顔が赤くなるのを感じた。
「すぐ帰って来るよ!早く行こ、門番」
あたしはグッと門番の腕を引っ張り、部室を出ることにした。
写真館までの道のりはそう遠くない。歩きながら門番が、小さく苦笑した。
「急ぎすぎだ、アリス。少し落ち着け」
ハッとして気付くと、あたしは門番の腕にぶら下がるようにして、両手でぎゅっとつかんだままだった。
「わ、ごめん…っ」
あわてて腕を離し、意味もなく髪を整えたりしてみる。ちらりと横目で彼を見上げると、門番はふっと笑みをこぼし
「別に。そのままでも良かったんだけどな」
と言う。
「うー…」
なんだか気恥ずかしい。顔が熱かった。でも門番はやはり大人だ。顔色一つ変えない。
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