ホワイトクリスマス

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 実の所、女王はとても困った状態にあった。  例えば、こんな具合だ。  彼女はツカツカと吹奏楽部の部室に向かい、ドアをノックしたかと思うと 「ねぇ、クリスマスパーティーを開こうと思うの」 と言う。  中から出てきた吹奏楽部の部長が目を丸くしている。 「何、突然…」 「クリスマスパーティーよ。もしパーティーを開いたら、吹奏楽部の皆は参加してくれる?」  女王が首を傾げる。  初めは面食らっていた吹奏楽部の部長が 「え、えぇ…招待してくれるなら、行ってみたいとは思うけど」 と頷くと、女王はにっこりと笑んだ。 「本当?嬉しいわ。それで、実はお願いがあるんだけど…」 「何?」 「パーティーの準備、手伝ってくれないかしら」  突然の女王の言葉に、吹奏楽部の部長は困り顔だ。 「うーん、でも…うちの部も忙しいからね」 「そんなこと言わないで。手伝ってくれれば、きっと素敵なパーティーが…」  しかし女王が言葉を全て言い終える前に 「手伝いは無理」 と吹奏楽部にきっぱり言われてしまった。  それでも女王はにっこりと笑った。 「そっか。分かった。でも参加してくれるだけ、嬉しいわ。じゃぁ、招待状を送るから、きっと参加してね」 「うん、ありがとう」  そして吹奏楽部の部室のドアは閉められ、女王だけが廊下に残される。 「はぁ」  彼女は溜め息を吐いたが、すぐに顔を上げた。そして、また次の部室へと向かおうとする。  その様子を見ていたあたしは、思わず走り寄って、女王に声を掛けてしまった。 「女王、本気でパーティーを開くつもりなの?」 「あら、アリス。それに白ウサギも」  女王が目を丸くし、それから当然だと言うように頷いた。 「もちろん本気よ」 「でも全校生徒でパーティーって、すごい大変じゃない。それにまだパーティーを開けるかどうかも分からないのに、先に招待だけしちゃうなんて…大丈夫なの?」  誘ってしまった手前、もしやっぱり開くことが出来なかったということになった時に困るのは女王だ。あたしは心配したが、女王は自信を持って 「パーティーは絶対開くわ」 と言う。
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