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男の言葉に、そういえばと思い当たる。
魔物退治を頼んで、行方知れずとなった剣士がいたと聞いたが、生きていたのか。
「なんで、ここ?」
「3日前にヤツが逃げ込んだんだよ。以来ここで見張ってんのに姿を見せやがらねぇ」
横穴を指して忌々しく呟く男を見ながら、ジェメロスは肩の力が抜けていくのを感じた。
「……あんた、ホントに馬鹿なんだな」
「なにっ!」
男が目を怒らせているが、恐るるに足らずだ。
「三日三晩飲まず食わずで獣、しかも暴れることが本能の魔物が大人しく籠(コモ)ってられるはずないだろ。他に抜け穴があるとか考えないわけ?」
反論の為に開けられた口が、そのまま固定される。しばらく逡巡(シュンジュン)した後、歯切れ悪く切り出した。
「可能性がゼロって訳じゃないだろ」
「あんたが居なくなってからも、村に魔物は来てたらしいよ」
決定的だ。
男は唸(ウナ)りながら頭をかき、やがて足下の荷を持って立ち上がった。
「何してるんだよ」
「決まってんだろ、追うんだよ。こんなとこで待ってても、らちが明かねぇ」
ジェメロスが指摘しなければ、ずっとそうしていただろう事は棚上げである。
「俺も行くよ」
背中も、手も足も激痛が走ったが、歯を喰い縛(シバ)って立ち上がりそう告げると、彼はあからさまに苦い顔をした。
「ここからじゃ降りようないし、もうひとつの出口ならまだ地上に近いかもしれないからね」
言いながら、少し違和感を覚える。
「あんたはどうやって、ここに来たんだ?」
下界から登るにしても、上の足場から降りて来るにしても、ひどく困難な道のりだ。
ジェメロスの問いに男はケロリと答える。
「滑(スベ)り降りて来たんだよ」
「結局俺と同じかよ」
「まぬけと一緒にすんな。そっちは落ちた。こっちは降りた。全然意味が違うだろが」
「魔物倒した後はどうする気だったんだよ」
「そりゃお前、ヤツに降りれんなら俺にもできるって寸法で」
「後先考えて無い分、あんたのが馬鹿度は高いよ」
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