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「気の抜けた返事だな」
「興味無いし。だいたいいきなり何だよ。同情してんの? 勘弁してくれよ。俺は恵まれてたんだよ。健康優良児だし、食に困ったこともない。寧(ムシ)ろ憐れむべきは兄貴だろ」
あんなにも多くの人々に愛された人物が、今は名も無く、どことも知れぬ場所に埋葬(マイソウ)されているのだ。
「別に同情じゃねぇよ」
「じゃあ何だよ」
「しいて言うなら、詫(ワ)びだな。悪かったよ」
ガイストはそっぽを向いて、ふて腐(クサ)れたように言った。
「……どっちにしろ気持ち悪りぃな」
「お前なぁ。…………!」
呆れて開きかけた口を、ガイストは引き結んで、厳しい顔を奥へ向けた。
「この先にヤツがいるな」
「ヤツって」
自分たちの目的を思い出す。この先に居るのは
「間違いじゃないのか。魔物にしては静かすぎる」
「俺の気配を感じて、びびってんだろ」
ガイストは不適(フテキ)に笑って剣を抜く。
「どっから来るんだよその自信! 一度戻ろう。ここじゃそいつも振るえないだろ」
「こう狭(セマ)けりゃヤツも素早く動けねぇ。イーブンだ。安心しろ守ってやる」
「安心できっか!!」
抗議もなんのその。ガイストはそのまま進んで行ってしまう。
無視するわけにもいかないし、どうせ後ろは行き止まり。
「もう、どうにでもなれ!」
「お、覚悟決めたか」
「灯りを持ってかれたら困るんだよ」
「へぇへぇ、んじゃ持っといてくれ」
軽口を叩きなが進むガイストの背を照らすジェメロス顔は、以前よりも幾分かすっきりしていた。
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