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奥に進むにつれ、通路はますます歩き難くなっていった。瓦礫(ガレキ)は増え、壁には深い爪痕が刻まれている。
指先でそれを見つけるたび、手に持った光源が大きく揺れた。
なにかしら話して気を紛らわせたいところだが、迂闊(ウカツ)に声は出せない。
そのうち、鼻をつく鉄錆びの匂いと、地の底から響くような低い唸り声が通路を包んだ。
頭の中で警鐘が鳴り響くが、ガイストは足を止めず、それに続くジェメロスも、今更立ち止まることはできなかった。
唇がカラカラに乾いている。
やがて唸り声が止み、同時に二人も動きを止める。
鉄錆びの匂いはむせる返る程に濃い。
ガイストはニヤリと笑いながら振り返り、先を指差す。
光を向けると、通路より開けた空間につながっていた。
瓦礫が散乱しており、所々白く反射するのは何か骨の欠片だ。壁には無数の爪痕と、大きく抉(エグ)れた箇所(カショ)が目立つ。
動けずにいるジェメロスをそのままに、ガイストは中へ足を踏み入れた。瞬間
「ガイスト!!」
死角に潜んでいた銀色の塊が飛び出し、彼が視界から消え去った。
転げ落ちるように追いかけ灯りを向けるのと、銀の塊が飛び退いたのは同時だった。
「心配すんな。傷一つ負っちゃいねぇよ」
相変わらず大胆不敵に笑いながら剣を構えるその先に、狂ったように頭を振り咆哮(ホウコウ)する魔物の姿があった。
銀色の長い毛に覆われた姿は、雄ライオンに少し似ている。しかしその体躯(タイク)は熊ほどもあり、額から鼻にかけて露出した皮膚が、醜く岩のようにゴツゴツと隆起(リュウキ)していた。
「来るぞ」
ガイストの言葉を認識するより早く、身体が地面に引き倒される。彼が立っていた場所には魔物が激突し、内部が大きく揺れた。
「あいつパワーとスピードは凄げぇんだけど、あったま悪くてよ」
指し示す先では未だに壁にかじりつき、爪を立てる魔物の姿。硬い岩が軽石のように簡単に砕け散る。
「皮膚は鉄みたいに硬くて刃こぼれしそうになるし、このまま壁にぶつけまくって目ぇ回させるか?」
「そんなことしたらここが崩れて俺達生き埋めだぞ!」
「なるほど、そりゃマズイ」
「どっか弱点はないのかよ」
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