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引き倒された衝撃で全身が痛かったが、そんなことには構っていられない。
「弱点なぁ」
「何処かしらあるだろ弱いところが」
「……そっか、お前やっぱ頭イイな」
疑問符を浮かべるジェメロスの頭へ、宥めるように手を置くとガイストは中央へ進み出た。
「よお化け物。いっちょガチンコ勝負といこうぜ」
「!?」
快活(カイカツ)に吐かれた言葉に呼応して、魔物が岩を噛み砕きつつ振り返る。
「お前も魔物の端くれなら、二度も敵前逃亡なんて情けねぇマネすんなよ」
あからさまな挑発(チョウハツ)の台詞。魔物が言葉を解したかは定かでないが、闘争心に火をつけたのは確かだった。
全身を震わせ、ビリビリと衝撃を与えるほどに大きく何度も吠えると、一直線に己の獲物へと走る。
ガイストは寸で身を屈め、牙を向いた口の中へと剣を突き立てた。
「お前もここならさすがに斬れるだろ♪」
直後、爆発の衝撃を思わせる絶叫が辺りに響き渡る。
「危ねっ!?」
串刺しの状態で、尚も魔物は牙を向いた。
口内に残る剣の柄を破壊し、痛みから逃れようとデタラメに首を振る。
その行為は逆に自身を傷付けることとなり、どす黒い体液を周囲に撒き散らし、ようやく魔物は絶命した。
ドオッという振動と共に巨体が地に伏す。
「……ウソだろ」
呆然と呟き魔物の傍に跪(ヒザマズ)いたのはガイストだった。ジェメロスは戦々恐々としながらも近づいく。
正直、身体は痛いし、今しがた目撃した魔物の最期は壮絶だしで、あまり寄りたくなかったのだが、放って置くわけにもいかない。
ガイストは無言で魔物の口を抉じ開けた。黒い血の固まりと、剣の残骸がこぼれ落ちる。
「酷でぇ……。バッキバキじゃねぇか。剣も安かねぇのによぉ」
「これ見て言うことそれかよ」
精一杯のつっこみだった。
「なんか布貸せ」
「何する気だよ」
「引き抜くんだよ」
ジェメロスから受け取ったマントを、喉(ノド)の奥に見える金属片に巻き付けながら答える。
「エグい……」
「しゃあねぇだろ。証拠に首持って帰んなきゃなんねぇし。何ならお前やるか?」
「遠慮サセテ頂キマス」
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