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あっという間に白いマントが濃い紫に変色する。
黒い血じゃなく紫だったらしい。どうでもいい情報だ。
「俺、先、出テマス」
「出口わかんのか?」
「アソコ、穴空イテマス。風吹イテマス。外近イデス」
「へぇお前すげぇな。んじゃ俺もすぐ行くよ」
「コレ置イテ行キマス」
「お、悪りぃな」
預かっていたライトを下に置くと、すぐさま背を向け外を目指した。
穴は平地に繋がっていた。外は日が陰り始めているが、ジェメロスにとっては眩しく感じられる光だった。
後ろを振り返ってみる。
自分が通ってきた場所は、巨大な岩が折り重なり、一見すると人が通れるほどの穴が開いているとは見えない。この為兵も見落としたのだろう。
「王子!!」
「ペール。なんでここに」
「獣の咆哮が聞こえましたので。マントはどうされました」
「ハハ。思いの外役に立ってね。魔物退治してくれた男が持ってる」
渇いた笑いと共に告げられた言葉に兵はどよめく。
タイミング良く現れたガイストは、注目を浴びて流石(サスガ)に動きを止めた。
背に紫のマントを荷袋のようにして担いでいる。
「皆、あの者に手を貸してやれ。王子はこちらへ」
促(ウナガ)されて、離れたところに座らされる。着物をくつろげ怪我の具合を診ていく。
無数のアザは白い肌に映えて、より痛々しく見えた。
その間兵はガイストを取り囲み、称賛(ショウサン)の声を浴びせる。
始めは面食らっていた彼も、だんだん調子が出てきて、マントから首を出し、退治の様子を語って聞かせた。喝采(カッサイ)が二人の耳にも届く。
「マレは元気?」
「……家内は息災で御座います。いつも王子の身を案じております」
背中に塗られた膏薬(コウヤク)が心地よかった。ペールは問いかけに答えながら、足にもそれを塗っていく。
跪くその姿からは、表情が伺えない。
「ペール」
「はい」
「俺を恨んでる?」
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