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真実を知らされた時も、ペールはこうして跪いていた。
なによりもその事がジェメロスを打ちのめした。
「貴方を恨むことが何故ありましょう」
「俺を押し付けられて地位を失い、国も出ることになったんだ。今は元の職に戻ってるけど、当時は憎んでたんじゃない?」
冗談めかせて言い切った。
ずっと聞きたかったのと同時に、決して確かめたくなかったこと。
ペールが顔をあげる。真摯(シンシ)な目を受けて、思わず顔を背(ソム)けたくなったがそれを堪えた。
「貴方と共に過ごした時間は、私の宝です」
歳をとったと思う。皺(シワ)も白髪も増え、視線が近くなった。
今までは傍でそれを見てきた。
「私どもには子が居りませんでしたから。恐れながら我が子のように、貴方を想って参りました」
そっとペールの手が伸ばされ、ジェメロスの頭を撫でる。
「大きくなられた」
子供の頃、馬鹿をやった時は殴られた。初めて狩りで獲物を仕留めた時、撫でられた手はもっと乱暴で、けれども喜びと優しさが感じられた。
今の手はどうだ。まるで壊れ物に触れるよう。
あの手にはもう会えないのだ。
「ペール」
「はい」
「ありがとう」
「……はい」
手は静かに離れた。
「おーい。コイツ等どうにかしてくれよ」
困り果てたような声のガイストが近づいてくる。
応急処置を終えて、入れ替わりにペールが兵のもとへと去って行った。
「アイツ等俺のこと、ガイスト様! とか言うんだぜ。マジで勘弁しろよ。ってかどうした?」
「痛いんだ」
「あぁ確かに酷でぇアザだな。しかしなんだ、案外弱虫だな」
「全くだ」
衣服をただして立ち上がる。
「帰ろうエリアールへ」
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