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太陽は遠退き、月が夜を連れてきた。
煌々(コウコウ)と明かりを灯したエリアールの村は、もう目と鼻の先。
「しっかしお前さぁ、俺に感謝しろよぉ」
隣を歩きながらガイストは言う。ジェメロスは半眼で先を促した。
「だってよぉ、俺のお陰で任務も終わって、城に帰れる訳だろ」
「そのことね。……お前背中にドラゴンの形のアザってないよな」
「は? なんだそりゃ。んなもんねぇよ」
「だよな」
落胆半分、安堵半分。手早く見つかって欲しいところだが、彼を王に会わせるのは骨がおれそうだ。
「それがどうしたよ」
「そいつを見つけ出して、城に連れ帰るのが今回の目的」
「うへ、めんどくせ。ま、俺には関係ねぇからな~。あーあ残念だなぁ、俺にアザがあれば手ぇ貸してやんのによ~」
白々しい言い方だ。
帰りついたエリアールには、昼間見られなかった住民が溢れ、ジェメロス達を迎え入れた。
「王子様。ご無事でしたか!」
「村長この騒ぎは?」
「王子が討伐に向かって下さっているのに、我らが安穏(アンノン)としている訳にはいきませんから」
村中に火が焚(タ)かれていた。人々も松明を持ち、昼のような明るさだ。
魔物は明かりを恐れるという迷信がある。
勿論火を灯すのは今夜の限りでは無いだろうし、洞穴で会った魔物は照らされても怯まなかった。
言い伝えは言い伝えに過ぎないことを、わかってはいても何かせずにはいられなかったのだろう。
「心配しなくて良いよ。魔物は彼が退治した」
「ドラゴンの剣士様! 生きておられたのですね」
村長の言葉にガイストを振り返る。彼は肩をすくめて見せた。
「何でかコイツ等、俺のことそう呼ぶんだよ。気になってたんだよなぁ。何でだ?」
村長はサラリと答える。
「剣士様の背には、ドラゴンの形をしたアザが御座いましたので」
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