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「……悪りぃ、俺バカ言った」
「別に~」
項垂(ウナダ)れるガイストに、ごく軽い調子で答える。
「でもよ」
「同情してるようなら、殴る」
実際されても仕方のない、境遇(キョウグウ)かもしれない。
親子として対面してから今日より、私的に言葉を交わしたのはたった一度だった。
それも、城に入った時に一言[宜しく頼む]だ。
そのような状態では、父などと呼ぶのは憚(ハバカ)られる。
「わかった」
「ん?」
「俺はお前の味方だ」
「……」
なんだか暑苦しい空気だ。
「なんかお前勘違いしてないか? 別に俺は」
「良いんだ、俺が守ってやる。これは同情じゃなくて友情だ!」
「うざっ」
狭い室内で剣を掲げるガイストから、若干距離をとる。ガチャガチャと煩(ウルサ)い。
「っつかその剣、鞘(サヤ)と合ってないんじゃない?」
指摘され、不貞腐れながら腕を下げる。
手の中の剣は、以前使って居たものより貧相で、馬に乗っている間も鞘の中で煩く動き回っていた。
「しゃーねぇだろ。直す暇なかったし、質屋の中でも一番安モンだったんだから」
「城に言えば良い品用意しただろうに。恩賞(オンショウ)くらい受け取れよ」
王子を助け、たった一人で魔物を倒した強者と城では評判だ。
その上、褒美を辞退するナイスガイ!! と、主に女たちからの人気も上々。
今回の旅ができるのも、彼の存在によるものが大きい。
「いらねぇよ。俺にとっちゃ城の名剣も、質屋のナマクラもおんなじようなモンだ」
「毛嫌いし過ぎだろ」
「そうじゃなくって」
一端言葉を切り逡巡(シュンジュン)する。
「じゃあ聞くが、ドラッヘデンスって名の剣はあるか?」
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