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背を向ける彼女の肩を掴むと、半眼で睨(ネ)め付けられた。
拒絶の姿勢に、怯(ヒル)みそうになるがそれを堪える。
「兎に角一度城に来てください。王と話を」
「断る。まだこの街を離れることはできない。そもそも私は、直接聞きに来いと言ったはずだ」
埃(ホコリ)を払うようにジェメロスの手をどけると、彼女は扉の向こうに姿を消した。しっかりと鍵を掛ける音がする。
「なんだったんだ。今の女は」
座り込んだままのガイストが、顔を覆っていた手をどけながら呟く。
強打で額や鼻の辺りが赤く染まっている。
「女ってのはもっと優しくて、暖かい生き物なんじゃねぇのか?」
「お前の主観は別として、彼女も一応女の人で間違いないと思うよ」
ある程度は説明してきたはずなのに、そんな幻想を抱いていたガイストに呆れる。
「あー痛てぇ。鼻折れたかと思ったぜ。んで、どうすんだよ。このまま引き下がんのか」
「そういう訳にはいかないよ。あくまで連れ帰るように命を受けてるんだし」
痛む鼻を擦りながらガイストは視線で問い掛ける。ジェメロスは周囲に目を向けた。
「彼女は[まだ街を離れられない]って言った。何か原因があるんだ」
「……それさえ探りゃあ、連れ帰る糸口も見えてくるってわけか。探偵の真似事すりゃいいんだな♪」
「タンテー?」
耳慣れない言葉に首を捻る。ガイストは少し興奮したように説明を始めた。
「知らねぇのか? ジリエザには民間に犯罪調査する機関があってよ。カッコイイんだぜ~。変装とかすんの」
格好良さがいまいち伝わって来ないが、えらく機嫌が良さげなので掘り下げないことにした。
「んじゃそれで宜しく。俺は近所に話聞いてくるから、お前は向かいの宿屋からここ見張っといてよ」
「聴き込みと張り込みだな。任せとけ!」
意気揚々と馬を連れて宿に入って行くガイストの背に、若干(ジャッカン)の不安を感じつつもそれを見送った。
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