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「ドミナ? あんたドミナ・マガに用があるのかい?」
情報は思いの外早く手に入った。最初に訪ねた近所のパン屋の親父が、目を丸くしながら問い返してきたのだ。
この様子だと、彼女はこの近辺で有名人なのだろう。
「マガ……って、彼女エドゥカテオの魔女なのか!?」
この世界に魔導師は2種類いる。
独学で学んだ亜流と、エドゥカテオという東の果てに存在する天空都市で修学した導師だ。
独学の導師はちょっとした占いや、薬草に詳しい程度だが、エドゥカテオの導師は自然さえも操るという。
彼等は都市から出ることが殆(ホトン)どなく、どの国にも属することはない。
[マガ]とはその中でも、道を極めた者に与えられる称号だ。
「知らなかったのかい?」
「てっきり只の占い師かと」
「占いか、あんたタイミング悪かったねぇ。今は相手にしてもらえないだろ」
福々しく微笑む主人の言葉に、思案に耽(フケ)っていた意識を戻す。
「どうしてですか」
「以前は酒場や自宅で占いしてくれてたんだけどね。最近はどうも機嫌が悪いらしい」
「……そんな理由で?」
理不尽だが彼女らしいとも思う。主人は苦笑しながら続けた。
「数日前に街を出てからそんな調子だね。西の森に出入りしてるって話もあるし、今は関わらない方がいいだろう」
「西の森っていうのは?」
ジェメロスの質問に、それまで穏やかだった表情が真剣味をおび、ないしょ話をするように顔が寄せられた。
「年がら年中霧に包まれた、気味の悪い森さ。間違っても入ろうと思うんじゃないよ。恐い昔話の舞台なんだからね」
そう言って主人は身を離すと、茶目っ気たっぷりに片目を閉じた。
「さぁ、お化けも喜ぶ美味しいパンだよ。こっちのパイもお勧めだ♪」
人の良い笑顔につられ、勧められた品を幾つか買って店をあとにする。
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