骨の竜

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ペールは慇懃(インギン)に礼をすると、素早く退出した。 足音が遠ざかるのを聞いてジェメロスは、溜め息をつきバルコニーに出て月を見上げた。 今夜は表月(オモテヅキ)だ。 月は表月と呼ばれる真円から、七日をかけて半月になる。 そしてまた七日をかけて裏月(ウラヅキ)という真円になり、同じ時間をかけて表に戻っていく。 兄が死んだのは、この三つ前の表月だった。 美しく穏やかで聡明な兄は国民に愛され、次代の王として皆が望んでいた。 その兄が死に全てを自分が引き継いだ。 周りの期待、次期国王としての責任。 なんて、なんて…… 「面倒臭い」 ジェメロスは独り言(ゴ)ちて、手摺に凭れ掛かった。 生前兄とは顔を会わせることもなかったが、今は心の底から尊敬している。 帝王学やら礼儀作法やら今更厳しく叩き込まれ、挙げ句ドラゴンに会いに行け? 創世の竜だか何だか知らないが相手はドラゴンだぞ! どう考えても危険だろうが!! 自由に生きていた頃を思い出して、ジェメロスは再び長い溜め息をつく。 ゲーオルギアの王子は、18歳の誕生日に大地のドラゴンの祝福を受けねばならない。 それを教えられたも、ほんの二日前だった。 あれよあれよという間に兵を与えられ、ペールと共に送り出され、今はこのドラゴンの巣に至る道の中腹にある、王家の別邸に宿をとっているのだ。 このような場合にしか使われない邸宅のため、城の内装に比べれば若干劣るが、部屋の調度品はどれも豪奢なものだった。 そのことごとくをぶち壊してやりたい衝動に駆られながら、ジェメロスは荒々しく室内へと戻る。 城に戻ったら父王にいい加減文句の一つも言ってやろう。こんな人間を王にして、国が荒れても知らんぞ! 「あの……王子、如何されたのですか」 ベッドまで戻ったところで、先程の兵士がドア微かに開けて声をかけてくる。 「何でもないよ。風の音じゃないかな」 肖像画で見た兄の笑顔を真似て受け答えする自分は、何て滑稽(コッケイ)なのだろう。 ジェメロスは考えることを放棄(ホウキ)して、そのまま眠りについた。
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