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ドラゴンの巣への道は草木も少なく、岩石ばかりが転がる殺風景な道だった。
代わり映えのしない景色に欠伸(アクビ)を噛み殺しながら、手綱を握る。
「もう間もなく、洞穴の入り口が見えてきましょう」
「あぁ、そう」
「殿下! 何です、その気の抜けた御返事は」
兵士達は少し後方を歩き、聞いているものはペールだけと油断をしていた。
今回の儀式を取り仕切る祭司官が、慌ただしく馬を急かしてジェメロスに並ぶ。
「ゲーオルギアの至宝たる貴方様の御言葉とは思えませんな。病に倒れられてからの殿下はどうも生来の品位を損なう発言が多いですぞ。覚えておいでですか先日の式典のおり殿下は……」
「洞窟見えてきたから。ほら、急がないと」
話を逸らすための方便だったが、ジェメロスが指を向けた先には確かに洞穴があった。
丁度馬に乗ったまま通れる程度の大きさで、まるでこの入り口こそが竜の口なのではないかといった風だ。
「ここから出入りしてるなら、そんなに大きいドラゴンでもないかな」
「いえ、此れは我ら専用の通路でございます」
「え!?」
祭司官はあたふたと馬を降り衣服を整えると、荷を改めながら説明を始めた。
「この頂上に城ほどもある巨大な穴が開いておりましてな、大地のドラゴンはそこに居わします。わたくしは年に一度祈りを捧げに参りますが、その折ドラゴンが彼処から飛び立つ姿を目にしたことがございます。あの雄々しき姿……。感動で身体が震えました」
「恐怖じゃなくて?」
若干うんざりした調子で呟いた言葉は、涙を浮かべながら熱弁する老人の耳には届いていないようだ。
「王子、ここよりは徒(カチ)でお進みください。我らはこの場所で警固を勤めます」
「ああ……。って、ペールはついて来ないの!?」
慌て馬を降りたジェメロスは絶句した。
後ろの兵はペールの指示で既に持ち場についており、誰一人としてついて来るようすはない。
「この先は聖域ですから、入れるのは御二人のみ。ご心配為さらずとも入り口は一つですから、ここで守りを固めておけば問題ありません」
「二人って」
「さあ殿下! 参りますぞ」
意気揚々と掛けられた声に、ジェメロスはギギッと音がしそうな、散漫な動きで首を向けた。
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