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空は雲一つない青空で、どこまでも続き世界を優しく包み込む。
春の訪れを知らせる風は甘い香りを運びながら頬を撫でた。
屋上から春の象徴である桜を眺めれば、並木道に慌ただしく動く生徒の姿がある。
もうじき入学式を迎え、新しい生徒達を歓迎する為だ。
そんな慌ただしい日に俺は屋上で溜め息を吐いていた。
その原因をつくったのは、一人の女。
腰まで伸びたウェーブがかった茶髪に大きな瞳。小柄で色白のこの女が、俺を苛立たせる元凶だ。
女は、見せたいのか? って言いたくなるほどの短いスカートの裾を強く握り締め、今にも倒れそうだった。
まぁ、倒れたところで俺には関係ないのだが。
「もういいか?」
自分でも分かる程の低い声を出せば、女はピクリと体を揺らし、大きな目を俺に向ける。
その瞳には透明なものが膨れ上がり、今にも零れ落ちそうだ。
透明なもの。
俺を最も苛立たせるもの。
俺が一番嫌う
女の武器だ。
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