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「……いです」
「あ゛?」
蚊の鳴くようなか細い声を聞き取れず、耳に手を当て聞き返せば、女は眉をより一層下げて唇を噛み締めた。
苛々しながらも女の言葉を待てば、意を決したのか女は再び口を開く。
「別れ、たくないですっ」
今度はハッキリと聞き取れた言葉に、更に苛立ちが募った。
眉間に皺を寄せながら女を見る。
何か勘違いしてるみたいだから正しておかないとな。
「別れたくもないも、俺ら付き合ってねえだろ。何か勘違いしてねえか?」
そう。
俺は一言もこの女に『付き合おう』の一言は言ってない。
この女に限らず、全ての女にも言ったことのない言葉。
なのにこの女のように勘違いする奴はでてくるわけで。
「俺につきまとうな。鬱陶しいんだよ」
吐き捨てるように言えば、女の体が小刻みに揺れだした。
「先輩……酷いっ……」
その言葉にぴくりと眉がつりあがるのを感じた。
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