始まりの日

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「また泣かせたー。何人目だよー?」 間延びした声が耳に届き、視線を空から屋上にある校舎の入り口の方に向ける。 泣き去って行った女と入れ違うように現れたのは、俺とよく連んでいる金本裕也(カナモトユウヤ)だった。 裕也は楽しむような笑みを浮かべ、俺に近づいてくる。 「泣かせちゃダメじゃないかー」 「うっせ。あの女が勝手に泣いたんだよ」 「嘘つかない!! 俺の前から消えろ、とか言っちゃってさー」 眉を寄せ声色を低くして言うのは、俺のマネか? いやいや、そんな変な顔してねえし。 声だってそんな気持ち悪くねえし。 つかそんなことより…… 「てめえ、見てたな」 じろりと睨みつければ、裕也は頭を掻きながらあははと声をあげて笑った。 「バレたー?」 舌をだして楽しげに言うその姿に、軽く殺意を覚えてしまう。 こいつは俺とあの女のやり取りを見ていたのだ。 面白がって、そして恐らく最初のほうから。 この男はいつもこうだ。 俺と女の騒ぎをどこからともなく猟犬のごとく嗅ぎつけ、身を潜めて楽しんでいるのだ。
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