雨の降っていた日のこと

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その日は梅雨の始まりを告げる雨が降り、町には湿った風が吹いていた。 顔にあたる風は濡れた髪にまとわりつき、すぐに吹き抜けていった。 そんな雨の中、少年は傘もささずに歩いていた。 「はぁ、雨なんて全く付いていないよ」 少年は溜息を吐きこの忌々しい空を睨んだ。 「早く帰ろう、さすがに寒くなってきたかな」 少年は震え始めた身体を抱き呟いた。 少し歩いた所で、ふっと雨が止んだ。 辺りを見渡すと、雨は未だ降り続いている。上を見上げる少年と降り続く雨との境界線にはあるはずの無い傘があり、この忌々しい雨の流れを塞き止めていた。 「大丈夫かい?まったく、この雨の中に見覚えがある身長かと思ったら翔ではないか。驚いたぞ。」 傘の持ち主の女性は妙に大人びた口調で翔(かける)と呼んだ少年に話しかける。 「お姉さん…」 少年はぼそりと声に出した。 しかし女性は不満そうに 「美央と呼べと言っているのに」 と自らを美央と言う女性はそう言うと、いつの間にか傘を翔に預けて腕を組み天使のような笑顔であるがどこか怒ったように話した。 「わかったよ、美央さん」 どこかぎこちなく言う少年に女性は不満足、という様子であった。 二人のハジマリは梅雨の始まりを告げる雨に歓迎され、記憶の底へ沈んでいった。
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