行き倒れと沈黙の森林街

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一月前。 偶然にも森林街がアンデッド達に占拠された頃、クラウス達も一匹の強敵を葬った。 それがクルーエルスネイク。 土壇場でのカルナの閃きで、ようやく倒すことの出来た相手だった。 そしてそのクルーエルスネイクは、王国で決められたランクとしてはA級だった。 つまり、同程度の実力を伴った相手。 これは一筋縄ではいかないかも知れない。 「この本は、持って行っても?」 「構いません」 「ありがとうございます。 ミーナ」 「ええ。 『ヴァイス』」 赤々とした不死鳥の杖をミーナが一振りすると、本の真下に真っ黒な空間が開き、本を中に収めた。 「じゃあ、行こうか。 カルナ達が心配だ」 「そうね。 お邪魔しました、町長さん」 「いえいえ……御健闘をお祈りしております」 「ま、大船に乗ったつもりで待っていて下さい」 微笑みながら、大口を叩くクラウス。 付き合いの浅い人間ならばその言葉を額面通り受け取るだろうが、ミーナは違う。 クラウスの微笑みの固さに気付き、そしてそれに込められた意味まで読み取ってしまった。 「……やっぱり、あの魔物は上位の?」 「うん、間違いない。 クルーエルスネイクと同レベルの奴だ」 テント内では出来なかった、本音の会話。 町長であるあの老人を不安にさせる訳にはいかなかった。
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