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「ほぇー……珍しいこともあるもんだな
こんな辺境の村で連れを探すなんて」
このガナ村は、王都から馬車で一ヶ月もかかり、総人口800人と規模の小さな辺境の村である。
そんな村に勇者が来ること自体が珍しいのだが、そこで旅の供を探すなど、もはや奇怪としか言いようがないだろう。
「うむ、これこそ千載一遇のチャンスだ」
「チャンスって……なんの?」
「お前が勇者様と旅をするチャンスだ」
は? とカルナは怪訝そうな表情を浮かべ、胡散臭いものを見るかのような視線で父親を見る。
ライラはそんな息子の様子も気にせずに続ける。
「いいか?
勇者様と旅が出来るなんて一生の自慢になる
さらに社会勉強にもなるだろう
いいこと尽くしじゃないか!!」
まるで役者の如く両手を広げ、言い切るライラ。
そんな父親を、カルナは零点下の如く冷め切った目で見ていた。
「……んで、本音は?」
「お前が勇者様と旅をすればこの武器屋の名が売れる!
そうすれば二号店も出せる程に儲かるだろう!!
お前は親孝行が出来る上に社会勉強が出来るじゃないか!」
ライラは、数秒で意見を180゜どころか540゜、悪びれもせずに翻す(ひるがえす)。
呆れを通り越して尊敬してしまいそうである。
「あんたは自分の子供を商売の道具に使う気か!!」
だが、やはり回り回って怒りまで辿り着いてしまったようで、ライラへと物凄い剣幕で怒鳴るカルナ。
「そうだが?」
「……」
開いた口が閉まらない、とはこのようなことを言うのだろう、とカルナは身を持って実感する。
口どころか目まで全開になってしまっているが。
「ということで、行ってこい!!」
「ちょっ?親父?
無理矢理引っ張んの止め……
アッーー!!」
ここで振り出しに戻る。
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