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「何かお困りでしょうか?」
和尚は深夜の来客に驚きつつも、そう話しかけた。
「私達人間の出来ることなど、たかが知れています。
それでも良いと仰るなら…」
銀髪の妖怪は、無言で片手で抱いていた娘を差し出す。
「この娘は気まぐれで拾った者。…ここに置いてはくれまいか」
「気まぐれなら、そこら辺へ放り出しておいても良いのではないですか?」
「こりゃ貴様、この寒い中、りんを手放せと言うのか?
ワシはそんなのー」
早口で喋る小妖怪を睨み、和尚に視線を戻した。
「…返事は如何ほどに」
「私で良ければ、引き取りましょう」
笑顔でりんという娘を受け取り、銀髪の妖怪を見つめる。
「…貴方のような妖怪も居るのですね」
胸騒ぎを感じたりんは、はっと目を開けた。
「殺生丸様?」
「おお、目覚めたか」
「……っ」
見知らぬ声に驚き、声の主を見た。
「だれ?」
「ワシはこの寺の和尚じゃ」
「和尚様?」
ー何でそんな人が、りんを
抱いているの?
「殺生丸様は…?」
-そうだ。さっきまでそばに居てくれたのに。
「あの方なら、もう行ってしまわれたよ」
「……っ!?」
その一言に空を見るが、何も見えなかった。
「お前を宜しく頼む、と言っていたよ。お前はここで一緒にーー」
「イヤだっ!!」
暴れるりんを抱きしめ、落ち着いた口調で諭す。
「りん。あの方はお前が幸せに生きて欲しいと願っていたから、ここに預けたのではないかと思う」
「イヤだイヤだ!殺生丸さまあぁ―ーーッ!!」
大声で泣き出し、終いには腕に噛み付いて逃げた。
りんの心は、張り裂けそうだった。
いくら走っても、目に映るのは漆黒の闇。
その闇を照らす月光は、もう見えない。
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