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「りん、何をしとるんじゃ?」
「邪見さま」
「そろそろ殺生丸様がお帰りに、――ん?」
りんの手の中には大量の「ススキ」が握られていた。
「ススキを集めて、どうする何をするつもりじゃったんじゃ?」
「えっとね…」
そこまで言った途端、強風がりんの髪を揺らした。
りんが目を開けるとー
「お帰りなさい!」
ー待ち人来る。
殺生丸も邪見同様「大量のススキをどうするのか」と聞いた。
「えっとね、これをたくさん集めたら殺生丸様の「もこもこ」みたいになるかなーって…」
「……」
瞳が細くなる。
機嫌を損ねてしまったのかと、邪見が慌てて口をはさむ。
「こりゃ、りん。ススキと殺生丸様の「もこもこ」を一緒にするでない!」
「やっぱり無理だよね…」
しゅんとするりんに、邪見はぎくりとした。
「ま、待てりん。泣くでない。ワシはただーーーふぎゃっ!」
後ろから踏まれ、情けない声が出る。
「…寒いのか」
「え?」
「もし寒くなければ、ススキなど集めぬだろう?」
-全く、お前は。
「は、はい…」
-何故、すぐに言わないのだ。
ぐいっと腕を引っ張られ、毛皮の中にすっぽりと押し込まれた。「え?あ、あの…」
「…これでもまだ寒いか」
-お前が言えば、いつでもこうしてやる。
しばらくして、りんがもぞもぞと顔を出してきた。
まるでミノムシのようである。
「温かいです♪」
「そうか」
しばらくして、ふっと肩が重くなる。
「?」
りんはいつの間にか、すやすやと眠っていた。
今はまだ真昼間。
それなのに眠いということは…。
「邪見」
「は、はい」
いつの間にか起きていた家来に振り返る。
「昨夜、りんは寝たか?」
「……!」
邪見はパクパクと鯉のように口を開閉させながら、何かを言おうとした。
「…邪見」
声音が一段と低くなる。
この慌てぶりは、やはり。
「も、申し訳ーー」
…ばきっ。
今度は拳で殴られ、小さな体は弧を描いて飛んでいった。
「…殺生丸さまあ…」
りんの元へ戻ると、衣の裾を強く握られる。
(一晩中、待っていたのか)
この小さな体のどこに、そんな度胸があるのかと半分呆れていた。
いつ妖怪に食われても可笑しくないというのに。
-お帰りなさい!
秋空を見上げる殺生丸は、自分でも気付かぬ間に笑っていた。
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