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中華人民共和国、首都北京。
20世紀末より急激な成長を遂げた中国の中心地であり、その発展振りと言ったら、2050年現在、推しも推されぬ有数の近代都市にまでなっていた。
行き交う人々もかなりの活気に溢れており、自然と商売人も多く集まってくる。
繁華街など、そこに行けば世界中大概の料理を味わうことができ、故郷を離れたビジネスマンの癒しはもちろん、食道楽に勤しむグルメも足しげく通う場所である。
そんな通りの一角、ごくありふれた中華風の居酒屋に、その男達は集っていた。
座っている席も、特に何の変哲もないテーブル席であり、当の本人達も極めて普通な初老の男にしか見えない。
「こうして直接話すのも、久しぶりですな。バルタザール。」
中国系の顔立ちの男が、対面に座る欧州系の男へ、酒を勧めながら言った。
「そうですな。最後に会ったのは確か……件の若造。メルキオールの幹部就任以来、ですか?カスパール。」
「えぇ。あれから、やり取りは全て通信機越し。やはり、大切な用事は、こうして直に話しませんと。」
「フ……しかし、誰も夢にも思わんでしょうな。世界の軍需経済を牛耳るアザトースのトップが、このような場末の酒場で会談しているなどと。」
「木の葉を隠すなら森の中。実際、上手い手だと思いますよ。あの忌ま忌ましい、アメリカの若造の発案ではありますがね……」
それから少し、二人の間に沈黙が流れる。
運ばれてきた食事に箸をつけ、ウェイトレスへと適度なチップを渡し、沈黙の会談は続いた。
「その肝心のメルキオールは、今日はどうしました?」
「別件で来れない、と。例の、オーストリアでのサミットの一件でしょう。まったく……組織への貢献度が高いから黙認してはいるが……近頃の奴の行動は、目に余るものがある。」
アザトースは、第一次世界大戦を皮切りに産声を上げた組織であるが、今日のように盤石な力を持ったのは、そう昔のことではない。
ベトナム戦争でゲリラ、米軍両陣営へ武器を流し、傭兵の斡旋を行った頃から、右肩が上がり。
イラクでの戦争で上手く波に乗ったことが、現在の地位の大きな理由である。
そこでピークを迎えた組織の高度を、なんとか落とさぬよう維持し続けたのが、他でもない当時は若者であった、バルタザールとカスパール。
そして、二人の盟友であった、先代のメルキオールであった。
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