第九話:眠れる邪神の夢

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しかし、病によるメルキオールの急死により、当時若手でありながらも、相当のやり手として組織内で急成長を遂げていた、若きアメリカ人が最高幹部に就任した。 それが、現在のメルキオールである。 バルタザール、カスパールは、互いにこのメルキオールのことをよく思ってはいない。 いや、むしろ嫌悪していると言ってよかった。 「……これを。」 バルタザールが不意に差し出した書類に、カスパールは目を通す。 しばらくすると、カスパールの懐の携帯電話が鳴った。 「あぁ、ワタシだ。チベットでまた暴動……?わかった。交渉人を雇い、向かわせろ。予算はいつも通り。それで向こうが折れねば、軍を動かし鎮圧しても構わん。」 手短に要件だけを伝えたカスパールは、ため息をつきながら電話を切る。 そんなカスパールをからかうように、バルタザールは笑み混じりに言った。 「表の仕事も大変ですな。中国共産党、チェン全人代。」 「貴方程ではないですよ。ジョゼフ・ラインハルト欧州中央銀行総裁。さて、今期の業績ですが……素晴らしいの一言につきますよ。まさしく、EOT様とでも言いましょうか。」 「ヴァーミリオンの生産ラインはもちろん盤石。現在、その発展型の研究も進んでおります。後はチベットに流してやろうか、ウイグルに流してやろうか……タイやミャンマー当たりで、再び内戦を起こしてやるのもいい。」 「こちらも、アルビオンシリーズを始め、加盟各国が争い合うように特機の生産に勤しんでますよ。我々が提供した技術だとも知らずに、ね……」 洋々たる業績を語り合う互いであったが、何故かその表情は浮かない。 その理由は、メルキオールの業績にあった。 書類上に記されたその利益は、凄まじい値を示している。 米軍上層部を抱き込んでの、特定関連企業へのPT生産委託。 メディアを利用しての、好戦ムードの維持、軍入隊者の増加。 中東へ工作を行うことで、駐留米軍との小競り合いをコントロール。 これにより、確実な「シェアの拡大」を謀っていたのだ。 それまでも優秀な男であったが、特に今年に入ってから。 クロスゲートが出現して、EOTが主流になってからのメルキオールは、「異常」と言って差し支えがない。 未知の技術であるEOTをどのように利用するか、二人が四苦八苦しているその間に。
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