第十九話:紅い鬼、深き淵より

114/116
前へ
/744ページ
次へ
ビクリと身体を震わせたアインスト。 恐らくは、初めて見せた、明確過ぎる怯えの証。 それを見たのか、そうではないのか。 古鉄は、慣れた手つきでリボルバーへのリロードを行いつつ、ゆっくりとアインストらへ歩を進めてゆく。 『最高だろ。どうせ言ってもわからんだろうが、あえてもう一回言ってやる。』 ガチリとした金属音と共に、全弾満ちたリボルバーが、拳に収まり。 そして、撃鉄がカチカチと音を立てながら、ゆっくりと起こされた。 『この力で皆殺しにしてやる。1匹も例外はない。』 そして、シンヤは。 笑った。 心の底から、愉しくてたまらないといった風に、ニヤリと。 瞬間、アインストらに「限界」が訪れた。 あるクノッヘンタイプが、突如古鉄へ背を向け、一目散に去ってゆく。 逃げたのだ。 そんなものを感じることはないだろうが、恥も外聞も知ったことではないとばかりに、ただ不様に。 堰が切れたとばかりに、他のアインストらも次々とそれに続く。 まさに、総崩れ。 「隷属種」らの死への恐怖、「個」の本能が、「支配種」からの命令、「群」の不文律を上回ったのだ。 これは、ことここにいるアインストらに限定されることかもしれないが。 これで彼の者らは、「アインスト」として、「人間」に完全敗北を喫したのである。 古鉄とは真逆の方向へ、一直線に逃げてゆくアインストへ、シンヤはため息を一つ。 『めんどくせぇな。』 吐き捨てるように言うと、短距離空間転移。 古鉄、その巨体を、たちまちアインストらの退路の前へ躍らせた。 当然、慌てて歩を止めるアインスト。 『これもお前らの専売だった。ご機嫌だろ?』 リボルビングステークの一撃が、手近なグリードタイプの顔面に炸裂。 発砲音と共に崩れ落ちるグリードタイプ。 連撃にと、更に辺りのアインストらへ、次々に突き立てられる巨杭。 連射される発砲音、撃ち貫かれては、崩れていく異形の肉体。 いずれも一撃必殺、リボルバーに装填された6発で、きっちり6体ものアインストが撃墜された。 残されたアインストらは、再び踵を返し、古鉄とは逆方向へ逃走。 そして、またも古鉄は、その眼前へ空間転移。 まるで、ビデオのリピートだった。
/744ページ

最初のコメントを投稿しよう!

115人が本棚に入れています
本棚に追加