第十九話:紅い鬼、深き淵より

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「目標」からは。 否、今となっては、その「紅い鬼」からは、決して逃げられない。 それを理解したかのように、とうとうアインストらは、その動きを完全に止めてしまった。 人間で言うなら、「絶望」が、彼の者らに満ちたのだ。 『諦めたか。なら死ね。』 至近距離から放たれる三連マシンキャノン。 それに晒されたクノッヘンタイプの1機が、バタバタと下手なダンスを踊るかのように身を捩らせ、そして撃墜。 続いて、スクエアクレイモアがありったけ乱射される。 1つ1つ、特注製であるベアリング弾が、湯水のようにばら蒔かれ。 グリード、ゲミュート各タイプが、成す術なく撃墜に至った。 古鉄はこれで、スクエアクレイモアも、リボルビングステークも、三連マシンキャノンも全弾撃ち尽くしていたが。 「不幸」にも、本能的に咄嗟に身を固めたアインストアイゼンのみが、自身の堅牢さも相まり、撃墜を免れる。 『無駄にタフだな、パチ物。』 もはや、動くことすらままならないアインストアイゼンへ、古鉄はおもむろに近づいていき。 自身とも共通する、特徴的な頭部衝角を片手で掴み、もう片方の手でノド輪をかけるよう頸部を握り締める。 そのまま、角を持つ手で、頭部を引き抜こうと力を込めた。 アインストアイゼンは、手足をバタバタとさせながら、僅かな力で暴れる。 仮に、人間のように、言葉を発することができたなら。 必死に命乞いを行っていただろう。 死にたくない。 助けてくれ。 お願いだ、と。 『嫌だね。』 刹那、アインストアイゼンの首と胴はちぎれ、分かたれ、瞬時に絶命。 古鉄はそれを、まるで汚いゴミでも捨てるかのように、その辺へ放り投げた。 シンと、耳が痛くなるような「静寂」が場に満ちる。 宣言通りに皆殺しにされたアインストらはもちろん、教導隊、神鷹部隊いずれの「人間」も、誰一人、ただ一言も発することができなかったのだ。 しかし、それを破ったのもまた、他ならぬシンヤ自身であった。 『終わりました。命令通り、プラチナへ帰艦します。』 昂揚も、消沈もない、自然体の一言。 まるで、歳相応の少年のような雰囲気での発言である。 素であるのか、それとも一同に気を使ったのかはわからないが。 それでも、誰も口を開けずにいた。 しばしの沈黙の後、抑揚のない調子で、トラがプラチナへ通信を繋ぐ。
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