第二十話:晩夏の夜

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○ 2050年8月下旬某日、日本。 盆の時期も過ぎ去り、猛暑も下り坂。 長期の休日を終えた大人達は、またせわしなく働こうと再び活気づき。 子供達は、限りの見えてきた夏休みに、遊びを謳歌するか、残された宿題を片付けるかと悩む時期。 しかし、そんな「例年」は、今年には当てはまらなかった。 その年の初頭に現れた「クロスゲート」。 そこからやってきた、怪物により発生した災害。 8月中旬、およそ一週間に満たない期間ではあったが、死者だけでも、延べ1500万人以上の犠牲者を出した、まさに未曾有の天災だった。 「アインスト大災害」と銘打たれた、その被害の爪痕は事の他大きく。 重軽傷者で溢れかえる各医療機関、行方不明者の安否確認に奔走する警察機構、断絶された各ライフラインの復旧に勤しむ企業達と、挙げればそれこそキリがない。 当然、自衛隊各部隊も総力をあげ災害の事後処理へ尽力。 中には災害発生の際、ゴーストMK-Iに搭乗した者らはもちろん、戦闘に参加していた隊員も少なくはなかった。 件の災害の名にて、その「災害そのもの」と言って過言ではない怪物、アインスト。 艱難辛苦を経て、国内からの撃退、掃討に成功こそしていたが。 そんな連中との命のやり取りに、疲労を覚えないはずはなかった。 しかし今は、一刻も早い復興をと、誰もが一心に、我先にと、前線へ赴いている。 戦場ではない最前線でこそ、その真価を発揮する自衛隊、守りし軍隊の姿がそこにはあった。 とにかく、やらねばならぬことは山積みと、追われ続ける日々は、国全体でしばらく続くだろうことは容易に予想できる。 そんな混乱、喧騒は、首都東京も例外ではなく。 数週前とは打ってかわった騒々しい町並み、行き交う人混みに目を見張る、帰国直後のフォッグとアリー。 「報告には聞いていたが、本当に凄絶な事態だったようだな。」 「みたいね。まるで特撮映画、怪獣が暴れた後ってとこかしら。」 捲れ上がった道路、倒壊した建物など、尋常ではない衝撃の跡。 その後始末もこれまでままならなかったのか、辺りに散乱し放題になっているそれらの破片、残骸。 アリーの表現は、大概間違ってはいなかった。 映画などではなく、怪獣と呼んで差し支えない怪物らが、つい最近まで暴れ回っていたのが、動かしようのない現実なのだから。
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