第二十話:晩夏の夜

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無言を貫く実子達を前に、心底参ったといった調子のアマノ議員から、言葉が放たれる。 しかしそれは、トラでもマコトにでもなく、近くにいたマナミへの投げかけだった。 「ち、ちょっとちょっと、艦長さん、どういうこと、これ。事情聴取とは聞いていたけど、なんでカゲトラやマコトまで一緒なの?」 針のむしろのような空気へ、いたたまれなくなったとばかりに、ヒソヒソとした質問。 どうやら、アマノ議員にとってもこの状況は想定外だったらしい。 「トラさんとの証言を照らし合わせるなら、同時に話を聞いた方が早いって思いまして、ですぅ。」 「そりゃあ、そうだけどさ……………じゃあ、マコトは……………?」 「全部話しちゃったら、仲直りしちゃってください。いつまでも、親子で喧嘩なんて、ダメですぅ!!」 まるで、プンスカという擬音が聞こえてくるかのような調子で。 しかし、「本気」でマナミは言い放つ。 アマノ議員は、目眩を起こしたかのように、軽く頭を横へ振りながら。 「恐ろしい娘だな、君は……………」 心底から戦慄したといった様子で、額から冷や汗を滲ませつつ呟いた。 「と、とにかく、私が話せることは全て話した!!もう充分だろう!?」 「本当ですかぁ…………!?」 怪訝そうに問うマナミだったが。 念動能力持ちであるシャオ、何よりマコトからも特に反応がないため、ひとまずは嘘をついていないだろうと判断する。 「わ、わかってくれたみたいだね。それじゃあ、私はこれで……………」 一刻も早くとばかりに、そそくさと退散しようとするアマノ議員。 「待てや、親父。」 それを遮ったのはトラだった。 相変わらずのよくわからない表情、かつ抑揚のない口調で。 「な、なんだい、カゲトラ………………」 「とぼけんな。アレを差し出せよ。確約したはずだぜ。」 クレメンテ公国行き部隊には、なんのことかはわからないが、他の一同は理解していた。 トラがアマノ議員に従わざるを得なかった、弱味そのものと言っても過言ではないもの。 正体こそ、トラとアマノ議員以外には知る由もないが、今回の戦いの後、その譲渡が「確約」されていたことは、第三者であるシャオも確認済み。 知らぬ振りは通用しないとばかりに、簡潔かつ手短にトラは告げる。
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