第二十話:晩夏の夜

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「邪魔すんな、馬鹿兄。だいたい、ある意味じゃ、お前が今回の一番の被害者だろうが。」 「だから、それを踏まえて言うぜ。落ち着け。そんで、銃を下ろしな。」 トラに一瞥こそくれないが、しばしの逡巡した様子を見せた後、マコトはようやく銃口を外す。 しかし、その殺気じみた気配はいまだ揺らがず、クロードらも警戒を解かずいる。 「この狸を撃ったところで、なんの解決にもなりはしねぇ。そうだろ?」 「わかってる……………けどもよ……………!!」 悔しげにうつむきながら、葛藤のような表情を浮かべるマコト。 そんなマコトへ背を向け、トラはアマノ議員へツカツカと歩み寄った。 「だけど感情的には、ってやつだろ?それこそわかるぜ。」 そして、アマノ議員をかばうかのように立ちはだかると、改めてマコトに向き直る。 「それでも。いや、だからこそ我慢だ。私情での斬った張ったなんざ、それこそ今時流行らないぜ。」 いつもとは違う、どこか殺気も孕んだ、張り詰めた調子のトラ。 「わかったよ………………」 ようやく、拳銃を懐にしまうマコト。 場の空気もホッとしたかのように、ふわりと弛緩してゆく。 そして、その中でももっとも安堵したであろう、アマノ議員が努めて明るく声を上げた。 「い、いやはや、よかったよかった!!さすが、カゲトラ!!では、これで解決ってことでいいのかな?」 「ああ。これで万事解決だ。」 すかさずアマノ議員へくるりと向き直り、肩をポンポンと叩きながら、言ったトラ。 その顔面へ全力で鉄拳を叩き込んだのは、次の瞬間のことだった。 「「「ッ……………!!」」」 驚きに声を詰まらせる一同。 一方、派手に吹き飛びながら、会議室にある机や椅子を薙ぎ倒してゆくアマノ議員。 轟音と共に床を転がる肉体は、入り口近くの扉を前に、ようやく動きを止めた。 カツラは取れ剥き出しになる頭皮、上等なスーツも乱れに乱れ、白目を向き、鼻血を流しながら。 その様子は、散々、惨憺、最悪といった体で、ピクリとも動こうとしない。 その、聞こえているのかわからない有り様の父親へ、トラは叫ぶ。 「これで、何もかも手前ぇの都合よくいかねぇことが、よくわかったろうが!!今後、オレの仲間に、家族に下らねぇ真似してみやがれ!!次は、こんなもんじゃ済まねぇぞ!!」 啖呵。 しばらく静まり返る場、どう反応していいのかわからない空気。
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