115人が本棚に入れています
本棚に追加
「…………………!!」
驚愕に目を見開くアマノ議員。
それは、「かつて」捨てた幾多の名、いずれも「本名」。
リョウタロウ・アマノという「本名」を名乗ることになった際、巧妙に抹消したはずの名を、何故知っているのか。
そう目で問うアマノ議員。
そんな父親の様子に、してやったりといった笑みを浮かべ、トラは言った。
「昔、手前ぇでペラペラ喋ってたことじゃねぇか。ソースは他でもねぇ、お前自身だよ。」
確かに、まだトラが小さかった頃。
それこそ、マコトが産まれる前の話、幼子どころではないトラへ、酔った勢いで油断し、戯れに漏らしてしまったことはあった。
「それを、記憶していたと………………?」
「まぁな。」
恐るべき記憶力。
我が子を見くびっていたことを悔いる父。
「で、どうする気だ……………?」
己のルーツ、それは「こちら側」の人間として生きていくには、ある意味致命傷。
彼の門、クロスゲートが出現した今となっては尚更だ。
アマノ議員の質問は、今度はこちらの弱味を握ったつもりかとの問いである。
「別にどうもしねぇよ。面倒くさいし。」
「それを信じろと?」
「信じろよ。家族じゃねぇか。」
「……………!!」
それが全ての答えとばかりに、トラはさらりと放った後、退室していった。
残されたアマノ議員は、小さく笑いをこぼしながら、宙空を仰ぐ。
「家族、ね。信じろ、か。参ったね、ホントに。」
ここはまるで、離れ小島の如き「世界」。
あらゆる「平行世界」から断絶されたかのような、まさに特別な「世界」である。
当然のように、それぞれの平行世界、各々そこへ存在するはずの「自分自身」達との交信も、とうに途絶えてしまっていた。
まるで、同胞達から打ち棄てられてしまったかのような孤独。
「この世界」で生きざるを得ない、生きていくと誓った際、それを振り切るかのように、「自分自身」達とは決別を告げたはずだった。
今となっては、彼らがどんな末路を迎えたか、知る由も術もない。
しかし、リョウタロウ・アマノは確信する。
家族達が、自慢の息子達がいる己こそが。
無数存在する「自分自身」の中でも、最も幸せな人間であるだろう、と。
「どんなもんだい…………!!羨ましいか…………!?」
そんな彼らへ、届かないはずの声を、アマノ議員は勝ち誇るように呟いた。
最初のコメントを投稿しよう!