第二十話:晩夏の夜

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そんな心地よい余韻に浸る中、バツが悪いといった体で、すごすごと戻ってくるトラ。 「ど、どうしたんだい、カゲトラ……………?」 「机と椅子、片付けるの、忘れてた……………」 「そ、そうか……………」 しばしの沈黙の後。 2人は、示し合わせたかのように、同時に動きだし。 そのまま、黙々と地味に片付け作業に入る。 その間ずっと、微妙極まりない空気はそのままであった。 いい話、それで終わりはしない。 マナミの思惑と多少はズレたが、そんな似た者親子どうしの「和解」は、なんとかだが成立したのだった。 ○ 「以上、クレメンテでの任務の報告事項となります。」 アマノ親子の騒動により、会議室を変えたマナミと、クレメンテ公国行き部隊の面子。 クロードの口頭報告と、各隊員から提出された報告書のチェックを、マナミが終えたところであった。 マナミの判断は、問題なし。 続いて、努めて明るい笑顔になるよう、気をかけながら一同へ言った。 「ご苦労様ですぅ。クレメンテ組も大変だったみたいですね。」 イギリスでの緊急依頼、テロリストの鎮圧。 クレメンテ公国、ビルセイア宮への敵部隊強襲。 恐らくはアザトース特務部隊と思われる2名との戦闘。 誘拐された女王の奪還、足取りのわかっていない、黒幕であったルガート大臣。 Wシリーズに、暗黒騎士と名乗る謎の援軍。 とにかく、目まぐるしく事態が変遷したらしいことだけは確かだと、マナミは理解する。 「それでも、日本みたいなカオスっぷりじゃなかったわよ。クレメンテ行きを選んで、ホントよかったわ。」 軽い調子で言うアリーであったが。 戦闘のあったアザトース特務部隊員のうちの1人。 フォウ・インシュンとは、かつて深い仲であったという。 戦場で、敵味方としての望まぬ再会。 アリーの胸中を思うマナミの表情は、重く沈んでしまう。 「アリーさん………………」 「そんな顔しないの、艦長サン。この通り、五体満足で帰ってこれただけ、めっけもんよ。ね、フォッグ?」 「ぬ………………嫌味か、貴様………………」 左目を覆う眼帯を、無意識になぞりながら、フォッグは呟く。 アザトース特務部隊員のもう1人、アルカンシエル。 フォッグに勝るとも劣らない剣腕の持ち主で、同じく斬艦刀持ちの特機乗り。
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