第二十話:晩夏の夜

11/48
前へ
/744ページ
次へ
事実、クレメンテ公国行き部隊の中では、単純な戦闘力の最も高いフォッグに、最も重傷を負わせる程の剣士。 「不肖の兄弟子。然れど振るう剣の冴えは、恐るべきものでした。アザトース特務部隊。外道なれど、侮り難い輩共です。」 フォウのベルゼリオンに成す術なく撃墜に至ったアリーへ、意趣返しとばかり目線を送るフォッグ。 「…………………何よ、ハゲ。」 「別に何も、年増。」 にわかにピリピリとしだす空気。 慌てて話題を戻そうとするマナミは、もう1つの気になっていた事項へ質問を行った。 「その……………このWシリーズの項について、ですが……………」 クロードの報告書。 そして、口頭から得た情報にはこうあった。 アザトースが研究、試作投入された、人造人間から成る特殊部隊。 EOTが利用されてこそいたが、その比率はそう多くはなく。 しかし、既存のクローン技術の延長上にあるため、脅威としてはわかりやすく、警戒すべきだと。 クロードは、その戦闘用に調整を受けた個体らと交戦したらしく、苦戦の末撃退とあったが。 「それと、このリリス・ブロウニングという少女、ヴァーシュ君の妹、とも………………」 ヴァーシュに妹がいたなどという、降ってわいたような初耳。 今回の任務の最中に偶然出会い、不幸にも命を落としてしまったとだけ、報告にはあがっていた。 「Wシリーズとヴァーシュの妹が何か?」 クロードは涼しい顔で答える。 嘘は言っていないが、隠し事はあるといった調子だった。 一応の整合が成された報告。 その上では、Wシリーズとリリス・ブロウニングの「接点」について、矛盾はない。 しかし、何らかの因果はあったのではないかと、伺わせる程度には匂う不自然さ。 とにかく、クレメンテ公国行き部隊の報告の中で、この項目のみが、奇妙な感覚を放っていたのだ。 マナミは、なおもクロードを見続けるが、動じる様子はない。 「いえ………………何もありませんですぅ……………」 これ以上の詰問は無駄だろうと、悟ったような表情をマナミは見せた。 すると、今度はクロードの側から質問が入る。 「ヴァーシュからの報告は?あいつの妹のことです。本人に聞いた方が早いかと。」 「そうですね。わかりましたぁ。」
/744ページ

最初のコメントを投稿しよう!

115人が本棚に入れています
本棚に追加