第二十話:晩夏の夜

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アルトアイゼン、即ちゲシュペンストMK-III。 アマノ議員は、何故わざわざ「向こう側」の名称で古鉄を指したのか。 浮かんでくるは、ベーオウルブズ、紅い鬼と呼んで差し支えない戦い振り。 符合する言葉、看過するにはあまりに大きな事実に、ざわつきは収まらない。 一方、クロードも思い出していた。 人造人間、Wシリーズ。 その始まりの個体、比喩でもなく「人外」たるW01。 隠しだてる気はないが、わざわざ言う必要もない。 マナミへの報告を始め、報告書等の辻褄も合わせてはいたが、いつまで保つか。 実際にあれからのヴァーシュの感覚、反射の鋭敏さは、「異常」の領域。 黙せど、いずれ発覚するのは時間の問題だろう。 果たしてその時、他ならぬヴァーシュ自身の選択は。 互いが互いに、尽きない不安要素、それぞれの憂いを抱く最中。 「ま、なんとかなるさ。」 否。 万が一の時には、己らでなんとかするのだと、トラは決意し。 「成るようにしか成らんわな。」 否。 何かがあれば、己らで成すべきを成すのだと、クロードが決意。 2人の、2つの決意が、偶然にも全く同時に行われたのだった。 そして、「件の2人」が入室してきたのも、ほぼ同時である。 「すいません。」 「失礼します。」 クレメンテ公国行き組のメンバーは、シンヤへ目を見張る。 (ほぅ…………………ナンブ……………踏み込んだか、はたまた踏み外したか……………) (どっちにしろ、一皮剥けたみたいね、シンヤ……………) (明らかにレベルが飛び抜けて上がってる。代償は大きかっただろうな……………) 一方、日本行き組のメンバーは、ヴァーシュを注視した。 (隙が殆どなくなってやがるな。) (つーか、他人様の隙を上手く見つけられるようになったってとこか。) (馬鹿兄の目や、アポロさんの反応とは毛色が違うが………………とにかく、何かがピリピリと、ヤバイ感じがする……………) 両者共に言えることは、「見違えた」、その一言。 それが良い方向か、悪い方向かは別として。 確かに2人は、「男子三日会わざれば、刮目して見よ」を地でゆく成長を遂げていたのだ。 「皆、どうしたんすか?」 「僕達、定刻通りに来たはずですが……………?」 そこに気づかぬ本人達は、とぼけた様子で呟いたのだった。
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