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「いや、5分前。遅刻じゃねぇぜ。」
「社会人が板についてきたじゃないか、少年方。」
敢えて茶化すように言ったトラとクロード。
そんな2人を制するように、マナミが口を開く。
「シンヤ君………………ヴァーシュ君も、無事でよかったですぅ。」
「楽勝、と言いたいところだが………………」
「色々ありました。これより報告させていただきます。」
落ち着き払った空気。
しかし、随所に垣間見える、不自然だが自然な危うさ。
「体験」による武装、それを剥がせば、そこには「歳相応の少年」しかいない。
場にいる大人達は、それを敏感に感じ取っていた。
「最後に……………副長が合流したら、各々報告を。戦勝報告会ですぅ。」
マナミは、精一杯の笑顔で言い放った。
それぞれが負った傷は、決して浅くない。
しかし、それでも誰一人が欠けずに生きてまた会えた、それを心から喜ぶかのように。
しかし、それを切り裂くような一報が、マナミの携帯端末へ入る。
スコールからのコールであった。
「はい。ニノミヤですぅ。」
『艦長かい。皆もそこに?』
「はい。もう揃ってますぅ。」
『だったら、皆も聞いてくれ。出来るだけ落ち着いてね。』
スコールの様子から漂う、ただ事ではなさ。
怪訝に思いながらもマナミは、端末の通信をスピーカーモードに切り替える。
『たった今のことだ。副長から。ロクロウ・ヤマトから自主退職の申し出。つまり、辞表が提出された。』
衝撃の言葉は、手短に、簡潔に、発せられたのだった。
○
「副長!!」
社長室に飛び込み開口一番、マナミは叫んだ。
他のメンバーも、次々に開け放しの扉から入室してくる。
スコールへとデスクを挟んで向かい合う副長は、そんな一同に気づいて顔を向ける。
「艦長。それに皆も。如何が致しましたかな、そんなに慌てて?」
「イカもタコもないですぅ!!どういうことですか、辞表を出したって!!」
「どうもこうもありません。そのままの意味です。」
副長は、さらりと言い放った。
「………………ッ!!」
困惑したような、泣き出しそうな表情で言葉を詰まらせるマナミに、副長はなおも告げる。
「オペレーション・ペネトレイトは成功と相成りましたが。成功とは、被害無しと同義ではありません。」
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