第二十話:晩夏の夜

17/48
前へ
/744ページ
次へ
自衛隊からも借り受けた戦力を指揮下に組み込み、EOTの粋たる巨大大砲で、富士山を人口噴火。 確かに、被害、犠牲は最小限に抑えられる。 事実、あれだけの一大作戦にも関わらず、死者は0という驚異的。 否、奇跡的と言っていい数字が出ていた。 そう、死者は0。 最も尊いだろう人命は、守りきることができた。 しかし、生じた被害もそうかと問われたら、答えはNoである。 「周辺のマグマ、土石流被害。今だに僅かな鳴動が見られる富士山への警戒。仮にも、世界遺産である山へ兵器を撃った道義的な疑問。挙げていけばキリがありません。」 マナミにはもちろん、トラやマコトがいる中、敢えて伏せたことであるが。 あの時、プラチナの援護に回っていたゴーストMK-I、それらが受けた被害についても、自衛隊側から厳しい追及が来ていた。 もっとももそれは、己の子飼いと思っていた者達にそっぽを向かれた、ヒトウからの半ば悪意。 重箱の隅をつつくような、嫌がらせであったが。 「そ、そんなの大半がイチャモンですぅ!!無視ぶっちぎりですぅ!!」 マナミの意見は正しい。 しかし、ヒトウのような自衛隊佐官からの明らかな不満を始め、そういった「見過ごせない」方面からの文句は、今後更に増えていくだろうことは予想に容易い。 出る杭は打たれる。 そして、出ようとする杭もまた然り。 足を引っ張ろうと揶揄する程度など可愛いもの、明確に引きずり降ろさんと目論む者も出てくるはずだ。 「そうもいかないのが世の理。いえ、人の性ですかな。正しきが通っても、賞賛が礼賛が待っているとは限らぬのです。」 副長は、淡々とではあるが、寂しげに、哀しげに。 そして、どこか満足そうに言った。 正しきが通ったのは確か。 自分はもう、それで充分だと。 「教導隊関係者からも、だれかが責を負わねばならない。それが一番手っ取り早いですからな。」 「………………ッ!!し、社長!!社長も何とか言ってやって下さいですぅ!!」 実のところ、スコールは、副長が犠牲にならずとも済む手をいくつか思い付いていたが。 それはどうしても会社に、ひいては社員らに打撃が、痛みが伴ってしまう方法。 副長の言う通り、「生け贄」1人で事を治めるのが、最も軽傷で済む。
/744ページ

最初のコメントを投稿しよう!

115人が本棚に入れています
本棚に追加