第二十話:晩夏の夜

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「ア、アンタも腰を痛めてるわけ、フォッグ……………?」 アリーの疑問。 「相違ない。」 フォッグは更に力強く言い放った。 「なった者にしかわかるまい。如何な戦場も可愛く見える、あの地獄の痛みを………………」 「そ、そうなの……………」 「ギックリハゲ……………」 小さく吐き捨てたシャオの言葉に、フォッグが若干傷ついた次の瞬間、マナミの捲し立てが再開される。 「こ、腰がなんですかぁ!!そんなの、ブリッジに高級マッサージチェアでも、経費で買って置いとけば済む話ですぅ!!」 スコールは内心、落ちるかそんなもの、とツッコんだ。 マナミの連撃は、なおも止まらない。 「とにかく、プラチナブリッジには………………教導隊には、副長が必要ですぅ!!だ、だから………………やめる……………なんて……………」 いつしか浮かび始める涙。 紡げなくなっていく言葉。 そんなマナミを諭すかのように、困ったような表情を浮かべながら副長は言った。 「もう大丈夫。教導隊も、プラチナも、そしてもちろん貴女も。だから、この老骨の気を汲んでくれますまいか?」 「で、でも……………」 これまで、幾度となく助けてくれた副官との突如の別れ。 不安。 マナミの胸中は、もっともであった。 逡巡するマナミへ、副長からの、不意の質問が飛ぶ。 「マナミ・ニノミヤ。指揮官の心得。艦長の仕事とは?」 それは、マナミが「かつて」副長からもらった、戦場に臨む艦長としての「答え」であり。 ある意味、オペレーション・ペネトレイトの要ともなった教えである。 「己を……………仲間を……………信じることですぅ……………」 「そう。貴女自身を信じなさい。仲間である私が保証します。そうでしょう、教導隊各員?」 「聞くまでもねぇっての、副長さん。」 「今までも疑ったことはないが、知将の太鼓判付きときた日には、な。」 「いくら馬鹿の集まりでも、これだけ数がいれば、なんとかカバーはできるわよん。安心なさい、艦長さん。」 仲間達からの声。 信頼の言葉。 マナミは、ついに言葉を詰まらせたが、目頭を強くこすり、涙を拭い始めた。 その眼光は、落ち着きを取り戻し、何より強い光を放っている。 副長はアポロから立ち上がり、ピシリと直立不動に構え、制帽を脱ぎ、改めてマナミに向き合った。
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