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暗くジメジメした石造りの階段を降っていく。カビの匂いが鼻につく。 聞こえるのは悲鳴やうめき声のみ。 そりゃそうか。今から自分が向かう場所は、地下牢であり、拷問部屋なのだから。 しかし、拷問部屋なんぞに用はない。 というか、既にそこは使われていない。 剣を志す者に、そんな愚行を働くような者などいないからだ。 ただ、城にはとりあえずあるだろう、程度の理由でつけられた場所だ。 それでもうめき声がするのは、中に居やがる囚人共が、行き場のない絶望に嘆いているのだろう。 そんな場所のある牢の前で、俺は立ち止まった。 「よぉ、ひっでぇ格好だなオイ」 牢の中には男がいた。両手を鎖で繋がれて壁にぬいつけられ、剥き出しになった上半身にあるのは無数の痛々しい傷跡。 それがどれだけの戦場を駆け抜けたかを物語っている。 「……ガペルか」 「あぁ、そうだよ。お前のしけた面を眺めに来たぜ、ブラックメイル」 ブラックメイルは黒髪の隙間から、赤い瞳を覗かせる。 その気にいらねぇ視線が俺を射抜く。 「……お前は存外……、優しいのだな」 何てふざけたことを言いやがる。 「ハッ!気持ちわりぃこと言うんじゃねぇよ!俺は用を伝えに来ただけだ」 「用?」 「あぁ。近々、戦争を本格的に吹っ掛けるらしい。お前にも戦ってもらうとよ」 それだけ言って、俺は踵を返した。 「……戦おう。剣王様の為に」 そんな呟きを背後に聞きながら、俺は苦虫を噛み潰したような表情となり、千切れそうになるほど両手を握りしめていた。
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