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「…しゃーねぇな」
何とは無しに呟き制服の尻ポケットに手をやれば、そこにはチェーンでベルトと繋がった財布と鍵の束。
自宅とバイク、それから部室の鍵である。
ポケットの中身を確かめて向かう先は武道場の二階にある剣道部の部室だ。
二年になって早一ヶ月、幽霊部員の多い上の学年に代わり部長を押し付けられて一ヶ月ともいう。
部室の合い鍵の管理までを任されたのは、幸か不幸か。
今日に限って言えば幸運だっただろう――あの瞬間までは。
とにもかくにも、始業の時間まで部室で一眠りするつもりで気持ち足早に武道場へと歩を進める。
体育館の隣、校舎と校庭の中間に位置する武道場は一階が柔道場、二階が剣道場になっている。
二階へは外に備え付けられた鉄筋の階段を二十段程上がっていく。もちろん内部にも階段はあるが、少年が持っているのは二階の鍵だけなのだ。
そうして、階段を軽快とは言えないがしっかりとした足取りで登っている途中。
――キィン!
後方の校庭で気持ちの良いバットが球を打つ音がした。
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