#0 ぷろろーぐ

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ふと振り向けば勢いのある打球が、こちらに向かって一直線に飛んできていた。 居合と剣道で鍛えた動態視力と反射神経は、打球をかわすくらいなんてことない。 少年は余裕でかわせるつもりだった。 ほんの少し頭を反らすだけ、それだけで良いはずだった。 ――頭を反らせて打球をかわすところまでは。 ボールをかわして終わりだったはずなのに。 何故。 反らせた頭が。後頭部が。髪が。引っ張られている。 何が起きているのか、少年の理解が追い付くよりも早く。 不可視の力に引っ張られる頭に、抗うこともできず、とうとう足は階段を離れ、体が宙に浮く。 そうして少年は頭から階下へと落下していき―― 忽然と姿を消した。 打球を放った野球部員と、少年が落下したのを目撃した生徒たちが現場へと駆け付けた時、階段の下に横たわっているはずの少年の姿は無かった。 少年が肩に担いでいた通学バッグ以外、何も。 ただ、空に嗤う月の影を残して。
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