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まず門からしてデカい。
鉄格子の門は俺の軽く2倍はありそうな高さ。幅はトラック1台分あるんじゃないか? そのぐらいデカかった。
その奥に、明らかに他とは異彩を放つ石造りの豪邸が聳え建つ。ビルに挟まれているがしかし、何故だかこれもビルだという錯覚に陥ってしまう。
そして表札には、夜中でも存在感極まる『聖谷』の文字。
ピンと来た。
恐らくここはかの有名な、世界に名を誇る財閥を持つ――聖谷家。確か主の名前は樹(タツル)。
「市東峻様、どうぞこちらへ」
更にピンと来た。
きっとこいつらは聖谷家に雇われたヤクザ共。成る程、世の中を生き延びる為にはやはり汚い稼ぎ方をしなければならないらしい。俺は偶々目を付けられ、その犠牲になる1人な訳だ。
ふん。結局、よくニュースに取り上げられる政治家汚職問題の様に堕ちた財閥だなここはよ。
処世術を心得た者だけがサバイバルを勝ち抜く江湖、酷なもんだ。
数人のヤクザと歩き、ぶつぶつと胸中で文句を吐いているうちにも死の刻は止まらず迫って来る。
もうすぐ死ぬというのに、不思議と頭がクリアな事に自分でも驚きだった。死刑囚もこんな気持ちなのか。
「……羽衣お嬢様、連れて参りました」
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