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ぐい、と小さな手を引っ張る。
「手を離せ。帰らせろ」
女の子にキツイ言い方かも知れんがそんなの知らん。
「何でよ?」
「俺には帰るべき場所があるんだ。家も家族も俺の帰りを待ってる」
「嘘」
無念、きっぱりと断言されちまったぜ。
幅の広い廊下のライトがチカチカと点滅し、床で2つの影が濃く薄くを繰り返す。
「…何故分かったし」
「簡単よ。あなたの身辺調査を隈無くしたから」
金の力は恐ろしい。個人情報さえも左右されるのか。
もしくは俺の気付かぬうちにつけられてたか。
「それによるとあなたは5人家族の1人暮らし。3人弟妹。愛崎学園の……次は2年生だっけ。住所も知ってる。だけど面倒だから言わない」
よく知ってるな……が、しかしまだ甘い。
「俺も断固反対だし、第一親が黙っちゃいないだろうが」
「心配ご無用。もう許可は得たから」
それこそ嘘だろおい。あの頑固な両親が揃いに揃って了承なんて――
『あ、たっくん? 聖谷さんの家にお世話になるんだって? あんたなんかどうでも良いから、ま、頑張ってねー♪』
「…………」
マイマザァァァァァア!
携帯電話の向こうから聞こえてきたのは間違いなく母親の声。
携帯電話を閉じ、いやまだだと少女に向き直る。人生がかかってるんだ。負けるかよ。
「まだ納得いかないの?……仕方ない。条件をあげるわ」
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